不動産の貸主が外国人の場合、支払い家賃から源泉徴収すべきなのか?

執筆 税理士 松澤 智也

中国人経営者のスタートアップの時期で意外と多いのがこの源泉徴収の問題。

日本で起業するには、経営管理ビザの取得が必要になるわけですが、その要件のひとつに居住用とは別に、事務所、事業所といった事業を営む場所の確保が求められています。

通常は、法人設立から経営管理ビザの取得を日本在住の専門家に依頼しますが、その際、本店所在地となる事務所については、言語の通じる不動産オーナーを紹介されるケースが多いようです。

その不動産オーナーが非居住者や外国法人だったりすると、源泉徴収の義務が発生することになります。

わたしは中国人経営者の方との顧問契約後は、不動産賃貸借契約書に目を通し源泉徴収の有無を確認して、不納付加算税や延滞税の課税リスクを排除するようにしています。

みなさんも知らなかったでは済まされないので、チェックしてみてください。

源泉徴収が必要な賃借料(家賃)とは?

非居住者や外国法人から日本国内にある不動産を借り受け、日本国内で賃借料を支払う法人と個人は、その支払の際、20.42%の税率の源泉所得税を源泉徴収しなければなりません。

なぜ、源泉徴収が必要なのか

不動産オーナーが日本に住んでいる方や日本法人の場合、賃借人が支払った賃借料(家賃)は不動産オーナーの収入となり、申告・納付されるはずです。

一方、不動産オーナーが非居住者や外国法人だった場合はどうでしょうか?
OECDモデル租税条約6条によると、不動産から取得する所得は、不動産が所在する国にのみ課税権があると認められています。

ちなみに、日本の租税条約のほとんどが、このOECDモデル租税条約に準拠しています。

そのため、不動産オーナーが非居住者や外国法人だった場合、賃借料(家賃)の支払者に源泉徴収義務を課すことで、税金の徴収漏れを防いでいるんです。

では、細かな要件や手続きを確認しておきます。

不動産オーナーである非居住者や外国法人とは?

不動産オーナーが非居住者や外国法人といっても、非居住者とか外国法人って専門用語で難しいですよね。

国税庁ホームページでは下記のように解説されています。

我が国の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。

「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります
<中略>

法人については、本店または主たる事務所の所在地により内国法人または外国法人の判定が行われますが、その判定に当たっては、登記や定款等の定めなどによることになります
<中略>

国税庁ホームページ「No.2875 居住者と非居住者の区分」より

簡単にいえば、非居住者とは海外に住んでいる個人、一方、外国法人とは本店登記の場所が海外の法人との理解で良いでしょう。

源泉徴収の対象となる不動産とは?

日本で起業しようとして賃貸借契約を締結するはずなので、確認をするまでもないかもしれませんが、不動産が日本国内にあるかどうかもチェックしておきましょう。

賃貸借契約の目的について、法人はすべて事業用として使用されるため目的を問いませんが、個人の場合、居住用(親族の居住用含む)のため支払う賃借料(家賃)は源泉徴収の対象からは除かれています。

源泉徴収のタイミングと納税の時期

非居住者や外国法人から日本国内にある不動産を借り受け、日本国内で賃借料(家賃)を支払う際、20.42%の源泉所得税を天引きした残額を賃貸人へ振り込み、天引きした源泉所得税は、賃借料(家賃)支払い月の翌月10日までに納付します。

イメージとしては下記のようになります。

非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書(同合計表)を作成する

不動産オーナーである非居住者や外国法人へ賃借料(家賃)の支払いをして、源泉所得税の徴収・納付を終えたら、支払調書と合計表の作成をします。

ちなみに、わたしが使用している税務申告ソフトでは、作成できないので、わたしもPDFで作成しています。

非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書(同合計表)

参考までに支払調書の記入例は下記のとおり。

合計表は、支払調書作成の人数や支払い総額と源泉徴収税額を記入、支払調書を添付して翌年1月31日までに提出すればOKです。

この支払調書と合計表の作成と提出は法律で定められていることもあるのですが、賃借料(家賃)の受取人である賃貸人の確定申告の資料として使えますので、支払調書作成の際は、賃貸人(納税管理人)へ交付してあげましょう。

 

※非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書と合計表について、国税庁が提供している「e-Taxソフト」で作成・送信ができます。

「e-Taxソフト」についてはコチラ

賃借料(家賃)の受取人である賃貸人の取扱い

不動産オーナーである非居住者や外国法人の方からすると、20.42%って税金取られ過ぎじゃない!?って当然思いますよね。

安心してください。確定申告をすることで払い過ぎている税金は還付されます。

先ほどの例のAさんだと、100万円に20.42%の税率が課税されましたが、確定申告をすることで、管理会社への費用や減価償却、固都税を経費にできますし、雑損控除、寄付金控除、基礎控除は非居住者でも適用できるので、場合によってはかなりの部分が還付されるのではないでしょうか。

なお、非居住者や外国法人の方は、日本国内で申告・納付業務を担ってくれる納税管理人を選任して、届出書を提出する必要はあります。

具体的な手続きについては別の機会にまとめようと思っています。

あとがき

つい先日、関与先でもこの問題に直面しました。

関与してすぐの場合はまだ良いのですが、数回支払った後の関与は借主と貸主双方に制度の概要を説明し、納得してもらわないといけないので厄介です。

法人設立の最初の接触者である行政書士の先生や不動産管理会社は、この問題を認識している方は意外と少なく、法人設立と同時に源泉徴収義務者である賃借人がすべての課税リスクを背負うことになっているのが現状です。

あいにく税理士の関与は一番最後なので、課税リスクを背負う前の早いタイミングで相談していただきたいところです。

 

当事務所では、中国人経営者や外国人起業家の方の経営を支援しています。
お気軽にお問い合わせください。

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