外国人起業家が銀行口座をつくれない場合の対策法

執筆 税理士 松澤 智也

スタートアップの時期、頭を悩ます問題が銀行口座がつくれないということ。

ほんとうに多くの外国人起業家の方からご相談を受ける問題です。

じつは、銀行口座がつくれない問題は、日本人起業家でも同様に頭を悩ませています。

事業開始のため銀行口座をつくりたいのに、「取引実績が確認できないから・・・」と断られた起業家の方も少なくないのではないでしょうか。

ニワトリが先かタマゴが先かではないですが、面倒な問題です。

今回は、銀行口座がつくれない問題の原因と解決策などをお話ししていきます。

なぜ銀行口座がつくれないのか

銀行ではマネーロンダリングやテロ資金供与への防止対策に力を入れています。これは国際的な取り組みですので、日本だけの話ではありません。

マネーロンダリングとは、犯罪で得た不正な資金を、他人名義の口座や架空口座などを転々とさせることで、お金の出所をわからなくして正当なお金に見せかける手法です。

そのため、簡単には銀行口座がつくれなくなりました。

しかしながら、まったく銀行口座がつくれないとなると問題ですので、一定の本人確認を条件に銀行口座がつくれるようにしています。

とはいっても、冒頭の「取引実績が確認できないから・・・」と断られるケースは多いものです。

解決策は?

早い段階(事前なら尚良し)で取引実績をいくつか積み上げることが解決の早道です。

日本人起業家であれば、法人設立前に個人事業主としての取引実績や活動実績があれば良いでしょう。

取引実績の証明は、銀行によって異なりますが、下記のような書類を準備し、一連の取引の流れやサービス内容を説明できれば良いでしょう。

具体的には受注から納品までに登場する各種書類をもとに説明し、最終的にその売上と経費は帳簿に記載されて申告・納付していますというイメージです。

取引実績確認書類例

  • 帳簿書類や確定申告の控え
  • 見積書・請求書・領収書
  • 請求書に関する振り込み明細(通帳)
  • 経費の支払い

上記のケースはあくまで理想的な形です。

早い段階で取引実績が証明できない場合や、銀行口座をつくってから事業をスタートさせるケースがほとんどでしょう。

その場合の次善策についてお話しさせてもらいます。

銀行口座がつくれない場合の次善策

早い段階で取引実績が証明できない場合や、銀行口座をつくってから事業をスタートさせる場合、わたしが提案している方法は下記のとおりです。

ずっとこのままでという意味ではありません。十分な取引実績が確保できるまでの間というイメージです。

ポイント

  • ・個人名義の口座を事業用として利用
  • ・ネット銀行を利用

個人名義の口座を事業用として利用

事業用専用口座として、個人口座とは別の新たな銀行口座が用意できるのが理想です。

この口座を当面は法人用口座として利用しましょう。

半年から一年経過後、十分な取引実績が蓄積されたタイミングで法人口座の開設を目指します。

ネット銀行を利用

パソコンから法人口座開設ができ、手数料が安いので、時間とコストの面で優れています。

実店舗がないため、現金の入出金に不安を覚える方がいらっしゃいますが、ネット銀行ごとに提携している銀行のATMが利用できますのでご安心を。

ちなみに、ネット銀行のほとんどは、セブンイレブンのセブン銀行や、ゆうちょ銀行と提携しているため、それぞれのATMが利用可能。

【補足】ついでに経理の合理化もしてしまいましょう

あとから効率的にしようとすると専門家への費用や時間がかかってしまいますので、後々のことを考えて、経理の手間はスタートアップの時期から潰しておくことをおすすめします。

クラウド会計を導入して、事業用口座やネット銀行を紐づけ、見積書や請求書、領収書作成の経理業務も同時に行いましょう。

ついでに経費もキャッシュレス決済にしてクラウド会計と紐づけしてしまうだけで、スタートアップの時期から経理の合理化ができます。

どこの銀行で口座をつくるのが良いのか

さて、次善策を経て、十分な取引実績が確保出来たら、いよいよ銀行口座をつくりにいきましょう。

目安としては、一回目の確定申告が終わったタイミングが良いのではないでしょうか。

では、どこの銀行で口座をつくれば良いのかお話ししていきます。

メガバンク

輸出や輸入などの貿易関係や国際取引が多い場合や、頻繁に窓口へ行く、近くに店舗があるなど利便性を考えるならメガバンクでの口座をつくっておくべきでしょう。

一方で、メガバンクは小規模な融資には対応していませんので、資金調達先としてお付き合いをすべきではありません。

創業間もない段階でのメガバンク口座は、利便性や円滑な事業活動のための銀行口座といった位置づけでしょう。

地方銀行・信用金庫・信用組合

財務戦略として小規模事業者でも融資を受けやすい銀行との付き合いをスタートしておくことをおすすめします。

利便性や円滑な事業活動のための銀行口座がメガバンクであるなら、こちらは資金調達先としてお付き合いをはじめます。

在留期間が短い経営管理ビザの段階では融資を受けることが難しくても、在留期間が5年や無期限の高度専門職ビザや永住権を取得できれば融資への道も開けてきます。

そのための中長期的な財務戦略として、銀行口座をつくって定期積金など将来の資金調達への種まきをはじめても良いでしょう。

外国人起業家への融資情報

補足情報として、はじめての融資は日本政策金融公庫をおすすめします。

政府系の金融機関ですので、政策に直結した融資制度が豊富に用意されているため、まじめに日本で事業活動を行っていれば力になってくれる存在です。

融資への第一歩は、日本政策金融公庫へ相談に行きましょう。

あとがき

関与先へは、まず個人口座やネット銀行を利用して取引実績をあげ、確定申告後、銀行口座をつくりましょうと提案しています。

その際、メガバンクと信用金庫か信用組合で1つずつ銀行口座をつくってもらっています。

中国人経営者や外国人起業家の方で、法人設立後、いまだに銀行口座で悩んでいる方は当事務所へお問い合わせください。

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