国税庁を頂点とする国税組織は、近年海外関連の税務調査に力を入れています。
海外資産や国際取引に関する情報は様々な手段を用いて集めており、申告漏れや脱税が指摘されれば、重いペナルティが課されますので注意してください。
本記事では、国税当局が実施している海外関連の税務調査の状況および、情報の収集方法について解説します。
目次
海外関連事案は税務調査の重点項目
「国税庁レポート2023」では、海外関連の税務調査を重点的に取り組んでいる調査項目の一つとして掲げています。
<税務調査の重点項目>
①資産運用の多様化・国際化に対応した調査
②消費税の適正課税
③無申告者に対する調査
④シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に対する調査
グローバル社会が加速している昨今、複数の国に資産を有する方や国際取引を行っている事業者は少なくありません。
課税関係は納税者や取引相手等によって異なり、海外資産や国際取引が日本国内の課税対象にならないケースもある一方、国ごとの税制の違いを利用し、税負担を不当に軽減する租税回避行為は国際的な問題になっています。
タックスヘイブンなどを利用しての租税回避行為を黙認してしまうと、適正・公平な課税・徴収が損なわれてしまう危険があるため、国税当局は海外関連の税務調査を重点項目に位置付けて取り組んでいます。
海外関連の税務調査の実施状況
国税庁が公表した「令和4事務年度法人税等の調査事績の概要」および、「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、海外取引等に係る実地調査の実施件数は10,394件(前年対比155.7%)で、海外取引等に係る申告漏れ所得金額は2,259億円(前年対比140.2%)に上ります。
海外関連の税務調査は個人に対しても実施されており、令和4事務年度の所得税の実地調査件数は2,784件、申告漏れ所得金額の総額は1,036億円です。
税務調査の1件当たりの申告漏れ所得金額は3,720万円で、これは実地調査全体の1件当たりの申告漏れ所得金額1,456万円の約2.6倍に相当します。
また、3,720万円は過去最高だった令和3事務年度の3,690万円を上回る金額ですので、国税当局が海外関連の税務調査に力を入れていることが数字上にも表れています。
国税当局が行っている海外資産や国際取引への対応・取組み
国税庁では、海外投資を行う個人投資家や海外取引を行う企業による国際的な租税回避を把握するために情報収集手段を構築し、国際的な税務調査を行うための体制を整備しています。
海外資産・取引に関する情報収集の強化
国税庁では、国境を越えた経済活動から生じる所得を捕捉し、適正・公平な課税を実現するために、次の制度を活用して情報を集めています。
<海外関連資産等の情報収集手段>
①国外送金等調書
②国外財産調書
③財産債務調書
④租税条約等に基づく情報交換
⑤共通報告基準(CRS)による非居住者の金融口座情報の自動的情報交換
国外送金等調書は、金融機関から提出される法定調書であり、国外送金の額が100万円を超えた場合、氏名等の情報が税務署に伝わる仕組みになっています。
国外財産調書や財産債務調書については、対象となる納税者からの提出を義務付けている調書で、正当な理由がなく提出を怠った際の罰則規定も設けられています。
日本国内からでは把握することが難しい海外関連の情報については、他国と連携することで収集していますので、国税当局は想像以上に海外に関する情報を掴んでいます。
海外関連事案の取組体制の整備・強化
国税当局は国際的な租税回避に対応するための専門部署を新たに設け、よりスムーズに税務調査を行える体制を構築しています。
全国の国税局に重点管理富裕層プロジェクトチームを設置し、富裕層の中でも特に多額の資産を保有していると認められる納税者や関係者、主宰法人等をグループとして、一体的な管理および各種情報の収集・分析を行っています。
国税局や税務署には国際税務専門官など、以前から海外関連の税務調査等を担当する職員は在籍していましたが、最近では海外関連事案の税務調査を強化するために増員を求めるなどの行動も起こしています。
グローバルネットワークの構築・強化
外国の金融機関等を利用した国際的な脱税や租税回避に対処するため、税務当局間で非居住者の金融口座情報を定期的に交換しています。
令和3事務年度に外国税務当局から受領した日本居住者のCRS情報の件数は250万件で、令和2事務年度の190万件から大幅に増加しています。
また、多国籍企業による国際的な租税回避行為への対策として、国際課税ルール全体の見直しも行っており、国ごとの税制の違いを利用しての租税回避は年々難しくなっているのが実情です。
まとめ
グローバル化が進んでいる現状からすると、国税当局は国際税務調査の実施件数を増やすことは確実ですので、海外取引を行っている事業者は今まで以上に調査対策を行うことが求められます。
海外関連の税務調査は、通常の税務調査の担当者より優れている職員が担当することが多く、小さなミスから税務調査が大きく展開されるリスクも潜んでいます。
税務調査は受けないことも大事ですが、調査対象となった後の対応も重要です。
対応が後手に回ると税金を余計に支払うことになりかねませんので、国際税務に詳しい税理士に相談の上、個々の状況に応じた対策を講じてください。