消費税還付を受けるための要件と必要書類のまとめ

執筆 税理士 松澤 智也

輸出売上がある場合、国内で支払った消費税が還付される場合があります。

なぜ、輸出売上がある場合に消費税が還付されるのか。
今回は、そのしくみを解説するとともに、具体的な必要書類や申告手続きなど、消費税の還付を受けるための方法をまとめます。

また、消費税の還付を受けるための前提条件を留意点にまとめていますので、あわせてご確認ください。

このブログの中国語版はこちらからどうぞ。
消费税退还所需条件及必要文件概述

消費税還付のしくみ

消費税は、国内で物やサービスを購入したときの「消費」にかかる税金です。

消費税は消費者が負担しますが、消費者から預かった消費税は、物やサービスを提供する事業者がまとめて納税します。

その際、事業者は預かった消費税から、事業者自らが支払った消費税を差し引いて納めるべき消費税を計算しています。

国内取引のケース

このケースでは、事業者が納めるべき消費税は、消費者から預かった消費税200円から取引先へ支払った消費税100円の差額100円です。

ちなみに、消費者から預かった消費税よりも事業者自らが支払った消費税の方が多かった場合は、消費税が還付されます。

利益 消費税
売上 2,000円 200円
仕入 1,000円 100円
差引 1,000円 100円(納付)

輸出取引のケース

輸出取引のケースでも、基本的には国内取引のケースと同様です。

ただし、輸出取引の場合、物やサービスを購入したときの「消費」は国内ではなく、外国で「消費」されますので、日本国内の消費税は課税しないという考えになります。

 

つまり、輸出取引をしている事業者は、消費者から預かる消費税がないので、取引先に支払った消費税や経費として支払った消費税の還付を受けることができます。

言い方を変えると、取引先に支払った消費税が還付されるので、領収書や請求書の保存も重要なポイントになります。

取引先に支払った消費税は、仕入税額控除といいますが、仕入税額控除を受けるための要件や必要書類をまとめた記事がありますので、コチラをご覧ください。

仕入税額控除に必要な要件とは?インボイス制度における帳簿と請求書の保存について解説

 

利益 消費税
売上 2,000円 0円
仕入 1,000円 100円
差引 1,000円 ▲100円(還付)

 

上記のケースでは、2,000円で販売していますが、国内取引のケース同様、2,200円で中国の消費者へ販売したとしても、この2,200円には消費税が含まれていない(預かった消費税はない)と考えます。

消費税の輸出還付を受けるための要件とは?

消費税の輸出還付を受けるためには、下記の要件が必要です。

①輸出取引に該当していること

②輸出を証明する必要書類の保存をしていること

③「消費税の還付申告に関する明細書」を税務署へ提出していること

順番に要件を確認していきましょう。

輸出取引に該当していること

消費税が免除される輸出取引には範囲があります。

消費税の輸出還付を受けるためには、まず、その取引が輸出取引の範囲に該当するかを確認しましょう。

輸出取引の範囲

  • 国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け
  • 国内と国外との間の通信または郵便もしくは信書便
  • 非居住者に対する鉱業権、工業所有権、著作権、営業権等の無体財産権の譲渡または貸付け
  • 非居住者に対する役務の提供 ※

 

おおまかな輸出取引の判定ポイントは、買い手側が外国・国外(非居住者)と理解しておけば良いでしょう。

たとえば、輸出取引の範囲の一つ目、「国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け」では、輸出取引の証明は関税法に規定する輸出許可書を保存すること(消規5①一)です。

そして関税法での輸出とは、「内国貨物を外国に向けて送り出すこと」(関税法2①二)と定義されていますので、資産が船舶等で輸送されて買い手である外国(非居住者)へ引き渡されることと理解できます。

さらに、輸出取引の範囲の三つ目と四つ目では、「非居住者」が取引対象者となっていますし、輸出物品販売場(いわゆる免税店)での資産の譲渡についても、買い手側は外国人旅行者などの「非居住者」であることが免税の要件とされています(消法8①)

※国内で便益を享受しないものに限ります

輸出を証明する必要書類とその保存

その取引が輸出取引の範囲に該当するかを確認できたら、つぎにその取引に応じた、保存しなければならない輸出証明書類(必要書類)の確認をしておきましょう。

輸出免税の適用を受けて、消費税の還付申告をするためには、その取引が輸出取引である証明と、その必要書類の保存が必要です。(還付申告について、税務署からこれらの書類の提示を求められます)

輸出取引の区分に応じた証明書類等を整理し、7年間保存する必要があります。

区分(上記輸出取引の範囲) 保存すべき証明書類等
輸出の許可を受ける貨物の場合 「輸出許可書」or「税関の輸出証明書」
20万円超(※1)の郵便物を国際郵便(※2)で輸出する場合
20万円以下(※1)の郵便物を国際郵便(※2)で輸出する場合 日本郵便株式会社から交付を受けた「郵便物の引受証」及び「発送伝票等の控え」(※2)
国際輸送・国際通信・国際郵便など 一定事項(※3)記載の帳簿または書類
その他 一定事項(※4)が記載された契約書等

補足

  • ※1 金額は輸出物品1個あたりの販売価格(FOB価格)で判定します。ただし、同一人に分割して輸出する場合は、その合計額

 

  • ※2 EMS、小包郵便、通常郵便が該当。EMSまたは小包郵便の場合は、「日本郵便株式会社から交付を受けた郵便物の引受けを証する書類」に加え、「郵便物に貼り付けた書類の写し(輸出した事業者の氏名等が記載されたもの)」の保存が必要です。具体的には「ご依頼主控」、「国際小包受取書」、「EMS受取書」が該当します。

 

  • ※3 取引に関する①年月日②内容③対価④相手方の住所氏名

 

  • ※4 ①契約当事者の住所氏名②譲渡日(契約日)③契約内容④金額

 

なお、郵便物として国際郵便で輸出する場合、その郵便物1個あたりの価格が20万円超の場合、税関への輸出申告が必要です。

「保存すべき証明書類等」をみていただくとわかりますが、「領収書」は必要書類に該当しません。

「領収書」では、輸出取引があったことを証明できませんので、ご注意ください。

「消費税の還付申告に関する明細書」を提出する

この明細書は、事業者が、消費税の還付申告書を提出する場合に添付して提出しなければなりません。

消費税の還付申告書とは、預かった消費税よりも支払った消費税が多かった場合や、輸出取引により消費税の還付を受ける場合に提出する申告書です。

消費税の還付申告書といっても、新たな申告様式が用意されているわけではありません。

通常の消費税の確定申告書(第一表)の⑧欄「控除不足還付税額」や⑫欄「中間納付還付税額」に金額が記載されている申告書を還付申告書といいます。

消費税の還付申告に関する明細書の記載事項

この明細書はおおきく分けて4つの部分から構成されており、さらに細かく項目が用意されています。

それぞれの項目と記載内容は以下のとおりです。

項目 記載内容
1.還付申告となった主な理由 今回の還付申告が、輸出取引によるものか、設備投資によるものかを選択
2.課税売上げ等に係る事項
(1)主な課税資産の譲渡等 ①売り上げた資産の種類等②取引年月日③取引金額④相手方の住所氏名
(2)輸出取引等の明細 ①相手方の住所氏名②取引金額③商品内容④所轄税関⑤輸出取引で利用する金融機関や通関業者
3.課税仕入れに係る事項
(1)仕入金額等の明細 ①損益の概要②資産の取得価額③①と②のうち今回の還付申告で支払った消費税とそうでない金額の明細
(2)主な棚卸資産・原材料等の取得 ①仕入れた資産の種類等②取引年月日③取引金額④相手方の住所氏名
(3)主な固定資産等の取得 ①購入した資産の種類等②取得年月日③取引金額④相手方の住所氏名
4.当課税期間中の特殊事情 今回の還付申告について特殊事情があれば理由を記載

 

現在、国税庁は不正還付防止に力を入れていることもあり、この明細書で簡易的な確認を行っています。

そのため、適当に記入したり、空欄だらけだった場合、税務署との資料のやり取りを繰り返すこととなり、還付はどんどん先送りされることになります。

しかしながら、上記内容を完ぺきに記入するのは骨が折れる作業です。

項目によっては、「取引金額が100万円以上の取引を上位10番目まで記載してください」と、省力化できますので記載例を参考に明細書を完成させましょう。

詳しい明細書の記載例は国税庁ホームページを参照してください。

消費税の還付申告に関する明細書の記載例

留意点

消費税の輸出還付を受けるためには、前提条件が2つあります。

ひとつは、消費税の課税事業者であること。もうひとつは、簡易課税の選択をしていないことです。

順番に確認していきましょう。

消費税の課税事業者であること

消費税の免税事業者であれば、消費税の申告・納付義務はありません。

義務はないので、当然に還付を受ける権利もありません。

そのため、消費税の還付を受けるためには、消費税の課税事業者でないといけません。

設立間もない事業者や、現在消費税の免税事業者であれば、事前に「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、消費税の課税事業者になっておきましょう。

なお、届出書の提出時期には注意が必要で、設立1期目と2期目の提出期限は、ともに設立1期目終了日(届出書には1期目か2期目のどちらから消費税の課税事業者となるか記入する)です。

もし提出が遅れたり、急遽輸出取引を開始する場合は、課税期間特例選択・変更届出書の提出をすることで事業年度途中から消費税の課税事業者となる方法もあります。

簡易課税の選択をしていないこと

簡易課税の場合、仕入れに係る消費税額(支払った消費税)は、売上げに係る消費税額(預かった消費税)に、事業ごとに区分されたみなし仕入率を乗じて計算され、売上げに係る消費税額(預かった消費税)から控除した差額を納付する計算方法です。

簡易課税の計算式

納付税額=預かった消費税ー預かった消費税×みなし仕入率

そのため、免税売上や実際に支払った消費税額は税額計算の対象とならないので、還付税額は理論的に発生しません。

消費税の課税事業者であっても、消費税額の計算を原則計算(冒頭に説明した、預かった消費税から事業者自らが支払った消費税を差し引いて納めるべき消費税を計算する方法)によらず、簡易課税による場合には消費税の還付を受けることはできませんので、ご注意ください。

 

選択している消費税の計算方法では消費税の還付を受けられない可能性もありますし、消費税を納め過ぎているかもしれません。

詳しく消費税の計算方法を知りたい方は、コチラをどうぞ。

消費税の一般課税・簡易課税・2割特例のメリット・デメリットを比較

あとがき

消費税のしくみを解説するとともに、具体的な必要書類や申告手続きなど、消費税の還付を受けるための方法をまとめました。

輸出取引や消費税の還付手続きについて、お客様からよく質問をいただくのが証明書類とその保管方法について。

輸出を証明する書類の保存方法のポイントは、税務調査や税務署からの資料依頼を想定しておくことです。

また、むずかしいのは、輸出取引の範囲の問題。

もし輸出取引の範囲に誤りがあれば、輸出還付どころではなく、国内取引として消費税が課税されるケースもあります。

輸出取引をこれから始める方にとっては、輸出取引の範囲や輸出を証明する書類など、判断やイメージがつきにくいと思います。

そのような場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。

スムーズに消費税の還付が受けられるよう必要書類の準備や保管方法、申告までの適切なアドバイスをご提供いたします。

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