役員報酬や給与の計算方法を解説(社会保険料・源泉所得税・住民税の取扱い)

執筆 税理士 松澤 智也

企業は役員報酬や給与を支払う際、社会保険料・源泉所得税・住民税を天引きすることになります。

天引きする額は支給額によって変化しますので、今回は役員報酬と給与に対する各種税金の計算方法について解説します。

役員報酬と給与の違い

役員報酬は、取締役や監査役などの役員に対して支給する報酬をいいます。

会社の株主から経営を任された対価として役員報酬を受け取るため、法律上の労働者には該当しません。

給与は従業員に対して支給する報酬をいい、会社が従業員と雇用契約を結び、従業員は労働の対価として給与を受け取ります。

役員報酬や給与を受け取る立場からすると、どちらの名目で報酬を受け取っても給与所得として課税対象になる点では同じです。

一方、報酬を支払う企業の場合、従業員への給与は全額損金算入が認められていますが、役員報酬は特定の要件を満たしていないと損金として計上することができません。

役員報酬に対する社会保険料・源泉所得税・住民税の計算方法

役員報酬に対する社会保険料は、支給のしかたによって上限が異なり、源泉所得税と住民税もそれぞれで計算方法が違います。

 

社会保険料

健康保険や厚生年金保険の保険料の額は、役員報酬の額によって変動し、保険料は都道府県ごとに毎年設定されています。

参考:都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/

 

役員報酬の支給方法には定期同額給与と事前確定届出給与がありますが、どちらの方法で役員報酬を支給するかで差し引かれる社会保険料の上限が変わります。

たとえば2023年11月現在、東京都であれば毎月の役員報酬の10%の健康保険料を支払うことになります。

役員報酬を受取る人が、40歳以上であれば、健康保険料率10%に介護保険料率1.82%が加わりますので、11.82%の保険料負担となります。

 

なお、健康保険、介護保険、厚生年金の保険料は、役員と会社が折半して負担しますので、保険料額表は全額欄と折半額欄2つ記入されています。

そのため、役員報酬からの天引きは、折半額でOKです。

源泉所得税

源泉所得税は、その月の役員報酬の額から社会保険料を差し引いた額に対して課すことになります。

源泉徴収税額は国税庁のホームページに掲載されており、社会保険料と同様、徴収される額は毎年変わります。

また、扶養親族等の数によって源泉徴収税額は変動しますので、事前に扶養親族の有無を確認してください。

 

参考:令和5年分 源泉徴収税額表(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2022/02.htm

 

住民税

住民税は納税者が自ら支払う「普通徴収」と、会社が税金を天引きする「特別徴収」の2種類あります。

普通徴収は年4回(6月、8月、10月、1月)に分けて住民税を納めるのに対し、特別徴収は12で割った住民税の額を役員報酬から毎月天引きして、会社が役員に代わって納付します。

特別な事情が無い限り、普通徴収は認めてもらえません。基本的に、特別徴収が義務となっています。

なお、天引きする住民税の額は、お住いの市区町村が計算を行うため、会社が役員ごとの住民税を計算する必要はありません。

毎年5月になると市区町村から「特別徴収税額通知書」が送付されますので、記載されている金額を毎月役員報酬から差し引いてください。

 

給与に対する社会保険料・源泉所得税・住民税の計算方法

給与に対する社会保険料・源泉所得税・住民税の計算方法は基本的な部分では役員報酬と同じです。

ただし、従業員に対して支給する給与の場合、社会保険料に労働保険という項目が追加される点、役員報酬と取扱いが異なります。

なお、労働保険とは、労災保険と雇用保険をひとつにまとめた呼び方です。

社会保険料

社会保険には5種類あり、基本的な計算方法はいずれの社会保険も給与に保険料率を乗じて算出します。

<社会保険の種類>

  • 厚生年金
  • 健康保険
  • 介護保険
  • 雇用保険 → 従業員のみ加入
  • 労災保険 → 従業員のみ加入

 

下記、保険料額表に記載されている標準報酬月額は、報酬や給与の額に応じて算出するものですが、これは基本給だけでなく役付手当(役職手当)や残業手当、通勤手当(交通費)なども含まれます。

通勤手当(交通費)は月額15万円までは源泉所得税が非課税となりますが、社会保険料計算のための標準報酬月額の計算には含まれるため、注意してください。

また、保険料率については社会保険の種類によって設定されており、会社と従業員の負担割合は保険の種類ごとに異なります。

たとえば、厚生年金保険は標準報酬月額に保険料率(18.3%)を乗じて保険料を算出し、会社と従業員が折半して負担します。

参考:都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/

 

源泉所得税

源泉所得税は、その月の給与の支給額から社会保険料を差し引いた額に対して課されます。

支給額は社会保険の計算と同様、基本給だけでなく残業代や役付手当も含まれ、社会保険料等控除後の給与等の金額に対する源泉徴収税額は、国税庁のホームページに掲載されています。

徴収税額は毎年変化する可能性がありますので、毎回対応した年分の「給与所得の源泉徴収税額表」を確認するようにしてください。

参考:令和5年分 源泉徴収税額表(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2022/02.htm

 

住民税

従業員に対する住民税は、役員報酬と同様「普通徴収」と「特別徴収」の2種類あり、原則は特別徴収を行うことになります。

従業員が納める住民税の額は、毎年5月に市区町村から送付される「特別徴収税額通知書」に記載されていますので、同年6月から翌年5月までの住民税は通知書に記載されている額を給与から差し引きます。

 

まとめ

役員報酬と給与に対する社会保険料・源泉所得税・住民税は、計算方法が異なる部分があるので注意が必要です。

管轄機関に誤りを指摘されてしまうと、次回以降マークされやすくなりますので、不明点がある場合には早めに顧問税理士に相談して対処してください。

また、労働者をひとりでも雇用すると、労働紛争を避けるため就業規則などのルールを整備する必要もあるため、当事務所では社会保険労務士への関与をおすすめしています。

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