消費税の一般課税・簡易課税・2割特例
メリット・デメリットを比較

執筆 税理士 松澤 智也

インボイス制度の導入により、消費税は一定以上の売上がある事業者だけでなく、インボイス事業者(適格請求書発行事業者)についても申告手続きが必要になります。

消費税の税額計算は、一般課税、簡易課税および2割特例のいずれかの方法を用いて行うことになりますので、今回は各課税制度のメリット・デメリットについて解説します。

消費税の一般課税制度の特徴

消費税の課税事業者となった場合、原則は一般課税制度により税額計算を行うことになります。

一般課税制度の概要

一般課税制度は、売上で預かった消費税(課税期間中の課税売上に係る消費税額)から、仕入れや経費で支払った消費税(課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額)を差し引いて税額を計算する方法です。

日本の消費税は標準税率10%と軽減税率8%の2種類あるため、売上で預かった消費税(課税売上げに係る消費税額)および仕入れや経費で支払った消費税(課税仕入れ等に係る消費税額)は、適用する税率ごとに区分して計算した金額を合計することになります。

一般課税制度のメリット

消費税を一般課税制度で計算するメリットは、下記の2点です。

 

  • 消費税の納税額を正確に計算できる
  • 消費税の還付が受けられる

 

消費税の納税額は、売上に対する消費税から仕入れに対する消費税を差し引いて算出するため、利益率が低ければ納税額は少なくなります。

簡易課税制度や2割特例は、仕入れに対する消費税は一切考慮せず、売上に対する消費税から納税額を計算するため、売上に対する消費税よりも仕入れに対する消費税の方が多い場合でも、納税額が算出されます。

 

しかし、一般課税制度で消費税を計算していれば、申告書を提出することで払い過ぎていた消費税が還付されます。

一般課税制度のデメリット

一般課税制度のデメリットは、申告手続きが煩雑になる点です。

税額を算出するためには、売上と仕入れに対する消費税額をそれぞれ計算しなければならず、仕入れに対する消費税額(課税仕入れ等に係る消費税額)を控除する「仕入税額控除」を適用する場合には、帳簿および請求書等の保存が必須です。

税務調査で帳簿等に関する不備が指摘されれば、仕入税額控除の適用が否認される可能性もあります。

 

また、インボイス制度が導入されたことで、仕入税額控除を適用するための要件として、適格請求書(インボイス)の保存等が追加されましたのでご注意ください。

消費税の簡易課税制度の特徴

事業者の売上規模が一定以内の場合、消費税の簡易課税制度により簡便的に消費税の税額計算をすることが認められています。

簡易課税制度の概要

簡易課税制度は、売上で預かった消費税(課税期間における課税売上に係る消費税額)から、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を乗じた額を仕入れや経費で支払った消費税(課税仕入れ等に係る消費税額)として差し引き、納付する消費税額を計算する制度です。

みなし仕入率は事業区分によって異なり、みなし仕入れ率が高い業種ほど納税する消費税が少なくなります。

 

<みなし仕入率>

業種 みなし仕入れ率
第1種事業【卸売業】 90%
第2種事業【小売業等】
小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
80%
第3種事業【製造業等】
農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)建設業、製造業など
70%
第4種事業【その他】
飲食店業など
60%
第5種事業【サービス業等】
運輸・通信業、金融・保険業、サービス業
50%
第6種事業【不動産業】 60%

 

簡易課税制度のメリット

消費税の簡易課税制度のメリットは、下記の2点です。

 

  • 税額計算が簡便
  • 実額よりも納税額を抑えられることがある

 

簡易課税制度はみなし仕入れ率を乗じて税額計算を行うため、支払った消費税(課税仕入れ等に係る消費税額)を算出する必要がありません。

仕入税額控除を適用するために必要な適格請求書等の保存は、簡易課税制度で税額計算する際には不要ですので、一般課税制度よりも申告書を作成する手間が簡便になります。

 

みなし仕入率は事業区分ごとに定められていますが、支払った消費税(仕入れに係る消費税)が少ない事業者は簡易課税制度で計算することで、実額で計算した場合よりも納税額を抑えることができます。

たとえばサービス業を営んでいる事業者の利益率が70%の場合、一般課税制度であればおおよそ70%に対応する消費税を納めることになりますが、サービス業のみなし仕入率は50%ですので、簡易課税制度を用いるだけで差額20%の消費税を節税することが可能です。

簡易課税制度のデメリット

簡易課税制度は、売上で預かった消費税(課税売上高に係る消費税)にみなし仕入れ率を乗じた額を控除額とする関係上、事業が赤字であったとしても納税額が算出されます。

制度を利用するためには事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならず、課税売上高が5,000万円超の事業者は簡易課税制度の適用対象外です。

消費税の2割特例の特徴

消費税の2割特例は、インボイス発行事業者となる小規模事業者を対象にした消費税の負担軽減措置です。

2割特例の概要

2割特例は、売上で預かった消費税(課税売上に対する消費税)の80%を特別控除税額として差し引くことができる制度です。

インボイス制度を機に消費税の免税事業者から課税事業者となった者が対象で、適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。

2割特例のメリット

2割特例のメリットは、消費税の納税額を売上で預かった消費税(課税売上高に係る消費税)の20%に抑えられる点です。

簡易課税制度を適用する場合、利益率の高い業種のみなし仕入率は低く設定されていますが、2割特例は、どの業種でも納税額を20%まで軽減できますので、利益率の高い業種ほど節税効果が期待できます。

2割特例を適用する際に事前届出は必要なく、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を記載するだけで適用できるため、経営状況に応じて適用の有無を使い分けられるのも利点です。

2割特例のデメリット

2割特例を適用できるのは、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合に限られます。

インボイス制度が施行される以前から消費税の課税事業者だった方や、2年前の売上(基準期間における課税売上高)が1,000万円を超える事業者などは2割特例を適用することができません。

赤字でも消費税の納税額は算出されますので、状況次第では2割特例ではなく一般課税制度を用いた方がいい場面もあります。

また、卸売業のみなし仕入率は90%となっているため、業種によっては簡易課税制度を適用した方が節税になるケースも存在します。

まとめ

消費税の計算は、簡易課税制度や2割特例を用いれば簡便になりますが、還付金を受けることができるのは一般課税制度に限られるなど、最適な課税制度は経営状況等によって異なります。

事業規模が一定以上になれば、一般課税制度で消費税の申告書を作成することを強いられますので、帳簿等の保存は滞りなく行ってください。

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