日本では個人や会社が給与等を支払う際に、支払金額に応じた所得税および復興特別所得税を差し引かなければなりません。
徴収した所得税および復興特別所得税は、定められた期限までに納付することが義務付けられており、納付するのを怠るとペナルティが課されるので注意してください。
本記事では、源泉徴収義務者の範囲と、源泉所得税を徴収しなければいけないケースについて解説します。
源泉徴収制度の概要
源泉徴収制度は、給料や報酬などを支払う「源泉徴収義務者」が、給料等の支払時に規定の所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」とする)を源泉徴収し、期限までに国へ納付する制度です。
税金の支払漏れを未然に防ぐための制度であることから、給与や報酬を支払う会社等が期限までに納付をしていない場合、不納付加算税が課されることになります。
給与等から差し引く税額は所得の種類によって異なり、源泉徴収した所得税等は、原則、徴収した日の属する月の翌月10日までに所轄の税務署へ納付しなければなりません。
ただし、給与の支給人員が常時10人に満たない小規模な支払者については、税務署長の承認を受けた場合に限り、給与などの所得・報酬に応じて源泉徴収した所得税等を、年2回にまとめて納付する納期の特例制度を利用することができます。
源泉徴収義務者の範囲
源泉徴収義務者には、個人や会社だけでなく、給与などを支払う学校や官公庁、人格のない社団・財団なども含まれます。
雇用している従業員がおらず、常時2人以下の家事使用人だけに給与・退職金を支払っている個人や、報酬・料金を支払う給与所得の源泉徴収義務を有する個人以外の個人については、源泉徴収義務者の対象からは除かれます。
たとえば、会社員などの給与所得者が税理士報酬や弁護士報酬を支払うケースでは、源泉徴収をする必要はありません。
個人や会社が国内において新たに給与の支払うことで源泉徴収義務者になる場合、給与支払事務所等を開設してから1か月以内に、給与を支払う事務所の所在地を所轄する税務署へ「給与支払事務所等の開設届出書」を提出することになります。
ただし、個人が新規事業を開始した場合や、事業を行うために事務所を設ける際には「個人事業の開業等届出書」を提出していますので、「給与支払事務所等の開設届出書」の提出は不要です。
源泉徴収の対象となる所得および源泉徴収税率
源泉徴収の対象となる所得は、居住者・内国法人・非居住者および外国法人によって違います。
徴収税額は対象所得に源泉徴収税率を乗じて算出することになりますが、所得の種類などによって適用する税率は異なるので注意してください。
以下の表は源泉徴収が必要とされる所得の種類と税率の概要です。細かな条件等は確認してください。
<居住者の源泉徴収対象になる所得の種類・源泉徴収税率>
所得の種類 | 源泉徴収税率等 |
利子等 | 15.315% |
配当等 | 15.315% 20.42% |
給与等 | 給与所得の源泉徴収税額表等に応じた額 |
退職手当等 | 課税退職所得金額に応じた税率 20.42% |
公的年金等 | 5.105% 10.21% |
報酬・料金等 | 10.21% 20.42% |
生命保険契約・損害保険契約等に基づく年金 | 10.21% |
金融類似商品 | 15.315% |
匿名組合契約等に基づく利益の分配 | 20.42% |
特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等 | 15.315% |
懸賞金付預貯金等の懸賞金等 | 15.315% |
割引債の償還差益 | 18.378% 16.336% |
割引債の償還金に係る差益金額 | 15.315% |
※所得の種類が同じで源泉徴収税率が複数ある場合、条件等で適用税率および源泉徴収の有無は異なります。
<内国法人の源泉徴収対象になる所得の種類・源泉徴収税率>
所得の種類 | 源泉徴収税率等 |
利子等 | 15.315% |
配当等 | 15.315% 20.42% |
金融類似商品 | 15.315% |
匿名組合契約等に基づく利益の分配 | 20.42% |
馬主が受ける競馬の賞金 | 10.21% |
懸賞金付預貯金等の懸賞金等 | 15.315% |
割引債の償還差益 | 18.378% 16.336% |
割引債の償還金に係る差益金額 | 15.315% |
※所得の種類が同じで源泉徴収税率が複数ある場合、条件等で適用税率および源泉徴収の有無は異なります。
<非居住者および外国法人の源泉徴収対象になる所得の種類・源泉徴収税率>
所得の種類 | 源泉徴収税率等 |
次に掲げる対価等で国内にその源泉のあるもの
1.組合契約事業から生ずる利益 2.土地等、建物等の譲渡による対価 3.人的役務の提供事業を行う者が受けるその役務提供の対価 4.不動産、船舶、航空機などの貸付けの対価および地上権などの設定の対価 5.利子等 6.配当等 7.貸付金の利子 8.工業所有権、著作権等の使用料または譲渡の対価 9.給与その他人的役務の提供に対する報酬等(非居住者のみ) 10.事業の広告宣伝のための賞金 11.生命保険契約・損害保険契約等に基づく年金 12.定期積金の給付補塡金等 13.匿名組合契約等に基づく利益の分配 |
原則20.42%
2.は10.21% 5.12.は15.315% 6.は一部15.315%
※租税条約により税率が軽減される場合あり |
国内に恒久的施設を有する非居住者が行う特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等 | 15.315% |
懸賞金付預貯金等の懸賞金等 | 15.315% |
割引債の償還差益 | 18.378% 16.336% |
割引債の償還金に係る差益金額 | 15.315% |
※所得の種類が同じで源泉徴収税率が複数ある場合、条件等で適用税率および源泉徴収の有無は異なります。
源泉徴収対象の報酬・料金等に含まれる範囲
講演料や弁護士報酬などは、様々な名目(謝金、取材費、調査費、車代など)で支払うこともありますが、実態が講演料や弁護士報酬などと同じであれば、名目を問わずすべて源泉徴収の対象になります。
また、旅費や宿泊費の支払いについても原則は源泉徴収の対象ですが、報酬・料金等の支払者が通常必要な範囲内の金額でホテルや旅行会社等に直接支払った場合には、その金額を報酬・料金等に含めなくても問題ありません。
まとめ
源泉徴収制度は、専門家でも頭を悩ませる非常に難解な制度です。
源泉徴収の有無は対象者や所得等の種類によって異なるため、源泉徴収義務者に該当する方は顧問税理士に事業内容を十分に把握してもらい、対象範囲などを前もって確認しておくことが重要です。
さらに非居住者および外国法人の源泉徴収については、租税条約(国家間の税の取り決め)の確認も必要になります。
税務署に納付漏れを指摘されてしまうと、それ以後のマークが厳しくなってしまいますので、ケアレスミスは極力防ぐことが大切です。