法人税を節税する方法は数多く存在しますが、同じ節税方法を用いたとしても実際に得られる効果は会社ごとに違います。
そのため、会社の規模や業種、経営状態によって用いるべき手段は変えるべきですが、節税のしかたや法令解釈を間違えてしまうと、税務調査で指摘される危険が出てくるので注意が必要です。
目次
法人税を節税する際に押さえるべき基本事項
企業は税金の支払いを抑えるため、日々対策に追われていますが、誤った節税は逆効果になる可能性があります。
利益を生んでいる企業ほど節税はあまり考えず、利益を生んでいない企業ほど必死に節税を考えているケースが多いように感じます。
十分な利益を生んでいない企業が、今すべき行動は、節税ではないはず。厳しい言い方をすると、節税を気にするステージではありません。
節税のステージに上がっていない企業が節税をしても、費やした時間とお金に比例した節税効果は期待できません。
節税は法人の資産を残すために実施するもの
まずは節税の目的を明確にしましょう。
企業が節税を行うのは、手元に少しでも多く資産を残すためではないでしょうか。
法人税は利益に対して課される税金なので、利益を抑える分だけ支払う金額も少なくなります。
利益を抑える方法は「売上を減らす」・「経費を増やす」の2パターンあり、売上が減れば会社の経営状態は悪くなることから、一般的には経費を増やして利益を圧縮します。
利益が圧縮されれば法人税の納税額は減りますが、手元の資産は支出を増やした分だけ減る点には注意しなければなりません。
税金対策のためにお金を使う経営者の方もいますが、浪費による経費の増加は節税の目的である「手元に資産を残す」とは真逆の行為です。
無駄にお金を使うのであれば、たとえ法人税を多く支払うことになったとしても、支出を抑えた方が資産は多く残ります。
例えば、現在、利益(現金)が10,000円出ている企業があるとします。このケースでの地方税等を含んだ法人税の見込み額は3,000円です。
ここで5,000円を支払って節税したとしましょう。利益(現金)は5,000円になるので、税金は1,500円に減少します。
税金の見込み額は3,000円でしたが、節税をしたことで1,500円になりました。税金は確かに減りました。
一方、手元に残る現金はどうでしょう。
節税しなかった場合では、7,000円(10,000円(現金)-3,000円(税金))が見込まれますが、節税した場合は3,500円(10,000円(現金)-5,000円(節税分)-1,500円(税金))となりますので、節税をした結果、手元の現金は半分になってしまいます。
節税の効果があったといえるでしょうか?
節税と脱税は根本的に異なるもの
「節税」と似た言葉に「脱税」がありますが、節税と脱税の性質はまったく異なります。
節税は法律の範囲内で行う税金対策をいい、節税により税金の支払いがゼロになったとしても合法なので問題ありません。
ただ税務署に否認されないために、節税行為が法律の範囲内であることを示す必要があるため、事前準備や調査対策は不可欠です。
一方、脱税は違法な手段により税金の支払いを抑える方法をいいます。
売上除外や経費の水増し、架空費用の計上などは脱税行為に該当し、税務調査で指摘されれば本税だけでなく、加算税・延滞税も支払うことになります。
意図的な税金逃れは重加算税の対象になりますし、高額な脱税については刑事罰の対象になるため、脱税行為で税金の支払いを減らそうとするのは厳禁です。
節税対策を実施する際の3つのポイント
節税対策は、次のいずれかの要素を含んでいないと十分な効果が得られません。
無駄な支出を抑える
節税は手元に資産を残すために実施しますので、資産が減る行為を少なくすることが大切です。
交際費などを増やせば利益を圧縮できますが、売上に繋がらない支出は単に資産を減少させるだけなので、会社にとってはマイナスです。
支出を減らせば利益が増えるので、法人税の納税額が大きくなる可能性がありますが、削減した支出額から税金を差し引いた額だけ会社に資産が残りますので、無駄な支出は極力抑えてください。
先行投資で利益を平準化させる
経費として計上できるのは実際に支出したものに限られますが、先行投資を行えば事業年度ごとの利益を平準化させることができます。
普通法人(資本金1億円以下)の法人税の税率は800万円まで15%、800万円を超えた部分は23.2%です。
1年だけ突出して利益が多い場合、23.2%の税率が適用される部分が多くなりますが、その事業年度に設備投資などを行えば利益を圧縮できます。
減価償却資産は、耐用年数に応じて取得価額を分割して経費として計上できるため、利益が増えることを見越して早めに設備投資をするのも節税手段として有効です。
制度や特例を活用した税金対策
法人税には一定の要件を満たした場合に限り、経費として認められるものも存在します。
役員報酬を一例にすると、決められた額しか経費計上が認められておらず、急に増額した分の役員報酬は損金不算入となります。
事業年度開始当初は業績の見通しが難しく、向こう一年間の役員報酬を決定するのに頭を悩ませる経営者も多いのではないでしょうか。
そんな時は、思った以上に経営が順調なケースを想定して、役員にも臨時的に賞与が支給できる届出があります。少しでも上振れの見通しがあれば、届出をすることで想定外のケースにも対応できます。
また、国の施策として期間限定で設けられた特例制度の活用も、税金対策には重要です。
有名なものとして、「ヒト」や「モノ」への投資については、多くの税額控除が設けられています。
通常であれば経費計上ができない支出を経費にできる場合や、控除制度の創設や控除額の拡大したことで効果的に節税を行えるケースもあります。
経営者がすべての特例制度を把握するのは難しいので、利用可能な特例制度は顧問税理士に相談するなどしてチェックしてください。
節税対策は税務調査を前提で講じることが重要
会社を運営していく以上、税務調査を100%回避するのは難しく、積極的に節税対策を講じている会社は、税務調査を受けることを想定した対策も必要です。
経費計上できる支出であっても、領収書など支出したことを証明するものがなければ経費が否認されることもありますし、役員報酬が過大とみなされた場合、その部分の額は損金不算入になります。
法令解釈の違いによって納税者側と税務署側で対立することもありますが、納税者側が節税方法は適切である根拠を示すことができれば、税務署は安易に否認することはできません。
節税だけを念頭に置いたやり方は危険ですので、節税対策と並行して調査対策も講じてください。
まとめ
節税は資産を1円でも多く残すために実行することが求められますので、無駄な出費を抑えるのはもちろんのこと、利益が多く出た事業年度は設備投資を先取りするなどの対策を講じる必要があります。
企業によって最適な節税方法は違いますので、対策する際は事前に専門家へ相談した上で行うことをオススメします。