税務会計とは?財務会計との違いや確定申告書を作成する上での注意点を解説

執筆 税理士 松澤 智也

確定申告書は帳簿書類を基に作成しますので、正しい経理処理は不可欠です。

税務会計と財務会計は似ている言葉ですが目的やルールは異なりますので、今回は税務会計と財務会計の違いと、確定申告書を作成する上での注意点について解説します。

税務会計とは?

税務会計は、企業が納める税金の額を計算するために用いる会計処理です。

財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計では「益金・損金・所得」の言葉が用いられます。

法人税法では、法人税を算出するための会計処理のしかたが定められており、財務会計と税務会計では算出される収益(益金)・経費(損金)・利益(所得)の額が異なります。

利益の額(所得金額)が多いほど法人税の納税額も大きくなるため、節税する際は所得金額へのアプローチが必要です。

財務会計とは?

財務会計は、投資家や債務者などの外部利害関係者に対し、経営状況等を説明するために用いる会計処理です。

じつは会社法では、株式会社は経営評価や財務状況を決算書等などの財務諸表にまとめるだけでなく、非上場会社を含むすべての株式会社に貸借対照表(大会社は損益計算書も)を公告することが義務付けられています。(ほとんどの会社は決算公告を実施していませんが)

会計処理は会計基準に基づき処理を行いますが、下記の3種類は財務諸表の中でも特に重要な「財務三表」と呼ばれており、会計処理を行う上では作成が必須です。

<財務三表>

貸借対照表 決算日時点の資産・負債・資本金をまとめたもの
損益計算書 収益、粗利率、純利益をまとめたもの
キャッシュフロー計算書 資金の入出金をまとめたもの

 

税務会計と財務会計の違い

税務会計と財務会計は、会計処理を行う目的および根拠が異なり、法人税の確定申告書は税務会計に基づき作成することになります。

<税務会計と財務会計の比較>

税務会計 財務会計
目的 企業が納める税金の額を算出するため 企業の経営状況を明らかにするため
ルール
(基準)
法人税法などの税法 会計基準

 

財務会計の処理が適正に行われていたとしても、財務会計をベースに法人税の申告書を作成してしまうと、申告内容に誤りが生じます。

税務署は納税額が正しければ、会計処理を深く指摘することは少ないですが、会計処理の誤りは申告内容に直結しますので、税務調査では会計処理のしかたもチェックします。

財務会計についても、金融機関や投資家などに経営状況を説明するためには正しい処理が求められますので、税務会計と財務会計はそれぞれのルールに従って処理しなければなりません。

税効果会計の目的

税務会計と財務会計では、算出される益金(収益)などが異なるため、双方のズレを調整するために「税効果会計」の手続きを行います。

税効果会計は企業会計上の資産(負債)の額と、課税所得計算上の資産(負債)の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金の額を適切に期間配分することで、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする会計処理です。

集計した一時差異等の差異に対して法定実効税率を乗じることで、繰延税金資産および繰延税金負債等を算出し、税効果会計上の仕訳を行います。

一時差異は、会計上の認識や計上時期のズレによって生じる差異で、将来的に解消される見込みがあるものをいいます。

一時差異が解消するときに課税所得を減額する効果を持つ「将来減算一時差異」と、一時差異が解消するときに課税所得を増額する効果を持つ「将来加算一時差異」があり、財務会計と税務会計の収益・費用の計上基準の違いにより生じる差異は、「永久差異」といいます。

永久差異は一時差異とは違い、税効果会計の対象外となるため、一時差異と永久差異の区分誤りには注意してください。

法人税の確定申告書を作成する際の注意点

法人税の申告書は税務会計をベースに作成することになるため、税務会計と財務会計の違いに注意し、双方で生じたズレについては税効果会計で調整します。

税務会計は、損金(費用)に計上することができない支出も多く、税務調査で指摘されやすい項目です。

たとえば、接待交際費は財務会計上は費用として処理することができますが、税務会計では接待交際費は原則損金不算入です。

損金算入が認められる接待交際費は金額に制限があるため、接待交際費をすべて損金として算入していると税務調査でチェックが入り、損金算入が否認される可能性があります。

役員報酬は一定の要件を満たした場合に限り、損金算入が認められている費用ですので、役員報酬を活用して節税するためには要件クリアが必須です。

企業が費用として認識している支出が損金として認められなければ、損金不算入となりますので、損金算入の要件を確認するとともに、否認されないために根拠を提示できるよう対策することも大切です。

まとめ

税務会計と財務会計は、企業が事業を営む上で欠かすことのできない経理業務であり、各会計処理のしかたを誤れば、法人税の申告書を正しく作成することはできません。

税制改正で税務会計の処理方法が変わる可能性はありますし、最近ではグローバル社会やデジタル化推進の影響で、大きな改正が頻繁に行われています。

最新の税情報を把握していないと、適切な会計処理を行えませんので、会計処理についての不明点は必ず専門家にご相談ください。

PREV
定額減税とは?適用要件および納税者がやるべき手続き
NEXT
一般課税制度と簡易課税制度の比較。消費税を節税しやすい課税方式とは