消費税の計算方法には一般課税と簡易課税があり、原則は一般課税です。納税者の選択により簡易課税制度を用いて計算することも可能です。
それぞれの課税方式には特徴があり、経営状態によって最適な課税方式は異なりますので、今回は消費税の一般課税制度と簡易課税制度を選ぶ際のポイントについて解説します。
なお、それぞれの計算方法については、こちらをご覧ください。
消費税の一般課税・簡易課税・2割特例のメリット・デメリットを比較
目次
消費税を一般課税制度で計算すべきケース
原則的な課税方式である一般課税制度ですが、簡易課税制度を適用できる事業者であったとしても、一般課税制度で消費税を計算した方がいい場面もあります。
仕入割合がみなし仕入率よりも高い場合
一般課税制度は実際の売上や仕入れに対する消費税額を計算し、差額を納めることになるため、売上に対する仕入れの割合が高い場合、簡易課税制度よりも一般課税制度で計算した方が節税になります。
簡易課税制度は業種別にみなし仕入率が定められているため、事業内容によってはみなし仕入率が低いケースも考えられます。
たとえば、みなし仕入率が50%の場合、課税売上高に係る消費税額の50%を納税することになりますが、実際の課税仕入れ等に係る消費税額の割合が課税売上高の50%を超えている事業者は、一般課税制度の方が納税額を抑えられます。
また、一般課税制度は実額で計算するので消費税を過大に納める心配がないため、損をするリスクを軽減できるのも利点です。
事業が赤字だった場合
簡易課税制度は消費税額の計算が簡便である反面、事業が赤字であったとしても納税額が必ず算出される仕組みになっています。
それに対し、一般課税制度は課税仕入れ等に係る消費税額の方が大きければ、納め過ぎた消費税の還付を受けられます。
開業当初は売上の予測が難しく、初期費用が発生することから赤字になるケースも珍しくありません。
当初から消費税の課税事業者として活動する場合、簡易課税制度を選択していると消費税の納税額が生じますが、一般課税制度で計算していれば赤字になった際は還付金を受け取れますので、経営が軌道に乗るまで一般課税制度で計算することも選択肢です。
消費税を簡易課税制度で計算すべきケース
事業者は次に該当する場合には、簡易課税制度を用いて消費税額を計算するメリットがあります。
仕入割合が低い事業を営んでいる
簡易課税制度は課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税の代わりに、みなし仕入率を用いて計算しますので、本来納める消費税より納税額を抑えられる可能性があります。
つまり、簡易課税制度はみなし仕入率の裏返しである利益率分の消費税負担を求めるのが簡易課税制度です。
よく例に使われますが、私たちのような士業やコンサルタント業の方の経費のほとんどは消費税のかからない人件費です。そのため、一般課税か簡易課税のどちらかを選択できるのであれば、みなし仕入率の50%を適用できる簡易課税が明らかに有利となります。
みなし仕入率は業種によって異なりますが、事業内容からみなし仕入率が実際の仕入割合より高い場合には、簡易課税制度で計算した方が消費税を節税できます。
経理処理を簡便に済ませたい場合
直接的な節税のメリットではありませんが、消費税の申告書の作成を簡便に済ませたい場合も簡易課税制度が選択肢となります。
一般課税制度を適用するためには仕入税額控除の要件を満たすだけでなく、課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額も計算しなければなりません。
仕入税額控除を適用するためにはインボイス(適格請求書)の保存等も必要ですし、仕入税額控除が否認されれば、経費として計上できる額も少なくなります。
その点、簡易課税制度は課税売上高に係る消費税額を計算すれば、納税額を算出できるため、計算ミス等のリスクを減らしたい場合も簡易課税制度を用いた方がいいでしょう。
消費税の課税方式を選択する際の注意点
消費税の簡易課税制度を適用するためには要件がありますし、課税方式を変更するタイミングも決まっています。
簡易課税制度適用後1年で一般課税制度に戻すことはできない
簡易課税制度を適用するためには、課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。
簡易課税制度を選択した後に一般課税制度へ戻すこともできますが、適用をやめる際は課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が求められます。
ただし「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は、事業を廃止した場合を除き、選択後に効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出することはできません。
つまり、簡易課税制度を選択した場合には、最低でも2年間は継続して適用する必要があります。
消費税の2割特例を適用しない方がいいケースもある
2割特例が適用できる事業者であっても、状況次第では適用する課税方式を変えることも検討してください。
「2割特例」は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者となった課税事業者を対象とする制度で、課税売上高に係る消費税額の80%を特別控除税額として差し引くことができます。
簡易課税制度と違い、2割特例を適用するために事前届出は必要ないため、一般課税制度または簡易課税制度と比較し、納税者にとって有利な課税方式を用いて消費税の計算が行えます。
消費税の納税額が実質的に課税売上に係る消費税額の20%になる制度で高い節税効果が見込めるため、2割特例を適用できる事業者にとっては消費税を計算する際の有力な選択肢です。
しかし、仕入割合が高い事業者や赤字となる事業者については一般課税制度で計算した方が節税になりますし、みなし仕入率90%の業種に該当する事業者についても、2割特例ではなく簡易課税制度を用いて計算した方が納税額を抑えられます。
まとめ
同じ売上高・仕入額であっても、適用する課税方式が異なれば算出される消費税額は変わりますので、課税方式を見直すだけでも節税効果が得られる場合があります。
簡易課税制度を選択すると2年間は継続適用しなければならないので、経営状況等を見極めながら消費税の課税方式を選んでください。
先日、当事務所の関与先の税務調査に立ち会った際、消費税の仕入税額控除要件を細かくチェックされました。どうやら、消費税率が10%になったことで、見逃せないほどの税金になったことが理由の一つだそうです。これは結構怖くて、仕入税額控除の4要件(①取引日②相手方の住所氏名③金額④取引内容)の不備を指摘するだけで簡単に否認されてしまいます。
こちらはきちんと経理処理しているつもりでも、受け取った領収書に取引内容(このときの調査では「●月分として」は内容がよくわからないのでと指摘されました)が記載されていないことは結構ありますので、注意してください。
また、インボイス制度が導入されたことで、税務署の消費税に対する税務調査が厳しくなることが予想されます(国税庁ではインボイス制度の定着を優先するので当面細かな指摘はしないとのこと。しかし現実には上記のような重箱の隅系の調査を実施しているので、鵜呑みにするのはキケンかなと。)ので、節税だけでなく税務調査対策の観点からも、消費税に関する税務手続きは1度見直すことをオススメします。