税務調査は法人税や所得税だけでなく、消費税に対しても実施しますし、令和6年以降はインボイス制度がスタートしたこともあって、消費税の税務調査が現在より厳しくなることが予想されます。
ここ数年、消費税の輸出還付申告をしている事業者は、ほんとうに消費税の税務調査が多いです。
ちなみに消費税の輸出還付にかかわる消費税の税務調査は、下記3点を重点的にチェックされます。
①輸出取引が不正なものではないか
②輸出許可通知書など輸出があったことの事実が確認できる書類の保存がされているか
③日本での課税仕入れがインボイスを含め、適正に処理がされており、不正なものではないか
この3点にすこしでも問題があれば、追加資料の提出や質疑などのやり取りで消費税の税務調査が継続されます。消費税の税務調査中は、あたりまえに消費税の還付はされませんので、資金繰りがどんどん悪化する事態に陥ります。
消費税の輸出還付申告を行う事業者は、最低限、上記3点は気を付けてください。
参考までに、消費税の輸出還付の要件や必要書類をまとめた記事がありますので、参考にしてください。
さて、本記事では、消費税の税務調査の現状と、調査対象になりやすい事業者の特徴について解説します。
目次
消費税の税務調査の実施状況
国税庁が公表している「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」および、「令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、消費税の税務調査の実施件数は増加傾向にあります。
個人事業主の消費税に対する税務調査の総件数は93,985件(前年比110.3%)で、そのうち61,055件は申告漏れ等の非違事項を指摘されています。
つまり、消費税の税務調査の対象となった個人事業主の65%が、消費税の追徴課税をされたということです。
1件当たりの追徴税額は42万円ですが、実地調査に限定すると1件当たりの追徴税額は132万円になることから、調査担当者が事務所や自宅を訪れて調査を行う場合には注意が必要です。
法人消費税の令和4事務年度における実地調査件数は約61,000件、非違事項を指摘された件数は約35,000件です。
法人は個人事業主よりも事業規模が大きいため、調査1件当たりの追徴税額は223.1万円と多く、不正計算があった事案の1件当たりの追徴税額は371.8万円に上ります。
参考:
令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf
令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/hojin_chosa/pdf/01.pdf
消費税の税務調査が強化されている理由
近年、国税当局が消費税の税務調査に力を注いでいるのは、主に2つの理由があります。
消費税の不正還付への対応
消費税の税務調査が厳しくなっている1つ目の理由は、不正還付を防止するためです。
消費税は課税売上に対する消費税から、課税仕入れに対する消費税を差し引いた額を納めることになるため、課税仕入れに対する消費税の方が大きい場合、消費税の還付が発生します。
簡単に消費税の計算方法をまとめた記事がありますので、参考にしてください。
消費税の一般課税・簡易課税・2割特例のメリット・デメリットを比較
赤字となっている事業年度は消費税が還付になるケースが多いですが、意図的に課税仕入れ額を増やすなどして、消費税の還付を不正に受け取ろうとする者が一定数存在します。
日本国外から旅行等で訪れた方は消費税が課されない免税者に該当しますが、一部の事業者は輸出物品販売場制度を悪用することで、国内売上を免税売上に仮装するケースが発生しているため、国税当局は不正還付を阻止するために取り締まりを強化しています。
不正と知らずに輸出物品販売場を利用したケースも多いです。
日本国外から旅行等で訪れた友人が輸出物品販売場で購入した物品を、国内仕入として購入し、消費税の輸出還付申告をする。これも不正還付です。
軽減税率・インボイス制度
消費税の税務調査が厳しくなっている2つ目の理由は、軽減税率の導入による影響です。
令和元年(2019年)10月1日から消費税が8%から10%に引き上げられたと同時に、軽減税率(8%)が導入されました。
消費税の軽減税率は食料品等に対して適用されますが、一般税率および軽減税率が適正に適用しないと正しい消費税の納税額(還付額)を算出できません。
たとえば売上に対する消費税を軽減税率、仕入れに対する消費税は一般税率で計算した場合、課税売上と課税仕入れの額が同額であったとしても、2%分の消費税が還付になります。
軽減税率対象の課税仕入れ商品をすべて一般税率で計算すれば、2%分の課税仕入れの消費税を増やすことができるため、税務署は消費税の納税額の過少申告や不正還付を防ぐために税務調査を行っています。
また、令和5年(2023年)10月1日からインボイス制度が導入されたことにより、仕入税額控除の適用要件が厳しくなりました。
経過措置はありますが、基本的に消費税の課税事業者は、適格証明書発行事業者が発行するインボイスを保存していないと仕入税額控除は適用できませんので、適正に管理しているか確認するために税務調査を実施することも予想されます。
消費税の税務調査の特徴と注意すべきポイント
消費税の税務調査は、所得税や法人税に比べると注目度は低いですが、対策および事前準備は必須です。
所得税・法人税と同時調査が行われやすい
税務署は複数の税目を同時に調査することが認められていますので、所得税や法人税を調査する際に消費税の税務調査を実施することが多いです。
会計上の処理誤りがあれば、消費税の納税額にも影響してきますし、免税や軽減税率は消費税特有の問題ですので、消費税を重点的に調査するケースもあります。
消費税の課税・非課税・免税の区分はチェックされる
消費税の取引は課税・非課税・免税のいずれかに該当しますが、取引ごとに適正に区分をしないと、消費税の税額を正しく算出できません。
日本に住んでいる方に対する取引は原則消費税の課税対象になりますが、不動産取引や役員報酬・給与など、非課税取引や消費税の対象にならない取引もあります。
国外取引や海外からの旅行者を対象とした取引は免税になるケースが多い一方で、免税制度を悪用して脱税する事業者も続出していることから、税務署は取引が免税に該当するかをチェックしています。
消費税の課税・非課税・免税の区分誤りは税務調査で指摘されやすいため、海外取引が多い事業者は特に気を付けてください。
消費税の申告の有無と仕入税額控除の適否
消費税は2年前の課税売上高が1,000万円以下であれば申告不要となっているため、売上が常に1,000万円に届かない程度の水準にある事業者は、売上除外が疑われやすいです。
ただし課税売上高が1,000万円以下でも、適格証明書発行事業者(インボイス事業者)の登録をした事業者は消費税の課税事業者になりますので、消費税の申告手続きは必須です。
インボイス制度の影響で新たに課税事業者となった方には、「2割特例」などの経過措置が設けられていていますが、要件を満たさない事業者は2割特例を適用できません。
要件を満たさない事業者とは、2年前の課税売上高が1,000万円を超える事業者などです。
詳しくは、国税庁ホームページの2割特例の概要をご確認ください。
2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
消費税の簡易課税制度の適用には「簡易課税制度選択届出書」の提出が必要ですし、一般課税(本則課税)で計算する事業者は、仕入税額控除の適否が税務調査の焦点になる点も踏まえて申告手続きをすることが求められます。
まとめ
源泉所得税や消費税は他人から預かった税金との性格があることから、税務調査が厳しくなる傾向にあります。
軽減税率とインボイス制度の導入で、消費税に対する税務調査件数は今後増えていく可能性が高いです。
中途半端な税金対策は逆効果になることもありますので、対策を講じる際は専門家にアドバイスを求めてください。
また、特に消費税の輸出還付申告を行う事業者は、安易に料金の安い税理士事務所を選ぶのは避けるべきでしょう。
安くてもキチンと対応してくれる税理士事務所であれば良いのですが、消費税の輸出還付申告の手間を考えると、安い料金での対応は不可能です。
当事務所にご相談に来られた医薬品の輸出を行っているお客様の事例をすこしお話させてもらいます。
このお客様は消費税の税務調査が長引き、消費税の輸出還付が半年から一年ほど遅れている状況でご相談に来られました。
状況を確認すると、数十億規模の会社でありながら、安い費用で税理士事務所に処理してもらっていたため、輸出があったことの証明書類や必要書類の指導を受けておらず、会計処理も適当でした。
問題点を洗い出し、改善方法を提案するとともに関与がスタートしました。
当初は税務署へマークされている会社だったので、多少時間はかかりましたが、いまでは消費税の税務調査はほとんど実施されず、早期の消費税の輸出還付を実現できています。
繰り返しになりますが、消費税の輸出還付申告を行う場合、中途半端な対策は命取りです。
多少料金が高くても、キチンと対応してくれる税理士を選ぶようにしてください。